第一章

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第一章

 先進国において脳梗塞や心筋梗塞などの血管障害は癌と並ぶ主要な死因である。  男手一つで私を育ててくれた父も、私が中学生の時にそれが原因で亡くなった。私は家族を奪った病気を憎み、その克服を人生の目標として勉学に励み、奨学金を獲得して大学へ進んだ。  だが実際に治療法を研究するにつれ、『どうすれば救えるか』ではなく『どうして救えないのか』ばかりが分かってくるようになった。    血管に障害が起こり、酸素や栄養の供給が絶たれると、脳や心臓の細胞は急速に死滅していく。病院に運び込まれた時点で既に多くの細胞が死んでおり、そして一度死んだ細胞は如何なる薬物を用いても生き返らせることなどできないのだ。  しかし、ある時私は気がついた。死んだものを生き返らせることができないのなら、死なないようにすれば良いのだと。  最初は動物を使って実験を行った。ケージに特定の電波を出す装置を取り付け、そこに、ある処置を施したマウスを入れたのだ。  もちろん最初からうまくいったわけではない。処置に使用する菌は何度も改良する必要があった。  だが最終的に得られた成果には、自分でも驚かずにはいられなかった。処置を施したマウスは、心停止させたにも関わらず動きまわり続けたのだ。
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