プロローグ

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プロローグ

「こちらのお荷物は…し、死体? 人間の!?」  書類に目を通しながら積荷をチェックしていた空港の職員は目を剥いた。 「もちろんちゃんと正規の手続を踏んでいますよ。こちらが証明書になります」  ケースの持ち主である銀縁眼鏡の男は、にこやかな表情でそう言いながら職員に書類を手渡す。  空港の職員はそれを受け取り、青ざめた顔でケースの蓋に手をかけた。私としては、できればそれを開けないで欲しいところだった。  何しろ、あのケースに収められているのは、私の身体なのだ。しかし今の私には、ただ見ていることだけしかできない。  それにしても、こうして離れたところから自分の身体を見下ろすというのは妙な気分である。  霊の存在を信じていた人間なら、死後にそういうこともあるのではないかと想像することもあっただろうが、私はそんなものの存在を信じたことはなかった。 「あれ、この死体の人って、まさかあの……」  ケースをチェックした後で再度書類に目を通していた空港職員が、驚きの声をあげた。 「ご存知ですか? まあ、有名人ですからね」  そう、この国において私は有名人だ。だが、それも今では悪名となってしまった。  今頃はニュースで私の死が報じられているのかもしれないが、それを聞いて喜んでいる者も多いだろう。  しかし私はただ、死ぬはずだった人々の命を救おうとしただけなのだ。
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