壊れたきらきら星

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   き、ら、き、ら、ひ、か、る……  「……の……星……よ……」  五歳の真由(まゆ)は、ステージの袖で小さな胸をドキドキ高鳴らせていた。  楽譜を握り締め「キラキラ星」を口ずさむ。  ワクワクして歌っているのではない。  緊張のなか、今から演奏する曲のメロディーを頭の中で反芻している。  人生初のステージ。百五十人程の小さなホールで、観客も教室に通う子とも達の父兄や親類だけ。  アットホームな雰囲気の発表会なのだが、小さな真由には、ステージがとてつもなく大きく、呑み込まれてしまうように恐ろしく見えた。  何十回も、何百回も練習したこの曲が大好きだった。  だが、パン屋のビルの二階の音楽教室で、隣で優しいお姉さん先生が見守ってくれている状況で弾くのとは全く違う。  それに今日着ているフリルとレースが沢山ついたキラキラのドレス――  母親は「なんて可愛いの!」と大喜びだったが――動く度にガサガサして落ち着かない気分になる。  ピカピカの靴も先がやたらと細くて歩きにくく、ピアノの椅子に辿り着くまでに転んでしまわないかと心配になった。  真由の前に演奏している小学生の女の子の「子犬のワルツ」があと十五小節程で終わる。  その子は教室で一番上手なので、ステージで指揮をしている先生も満足げな表情だ。  (この後で弾くとか……先生は何でこんな順番にしたんだろう……優しい先生だと思ってたのに……本当は意地悪なのかな?)  恨めしい思いでステージの二人を眺め、震え始めた指をぎゅっと丸めた。  大きな拍手が起こっている。ああ、とうとう番が来ちゃった――笑う膝を無理矢理立たせた。 「次の演奏は、水波(みなみ)真由さん、キラキラ星です」  アナウンスが流れたらもう行くしかない。  真由は、覚束ない足取りでステージのピアノへと向かった。    
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