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大丈夫、大丈夫……
あんなに練習したじゃない……
レッスンの時「とっても素敵よ」ってほめられたし。
それにーー
“まゆちゃんのピアノの音、虹の色だね”
真由の頭の中に大好きな男の子の澄んだ声が過る。
(とーた君……)
ピアノ教室で一緒の、同い年の男の子で、真由のボーイフレンド。いや、真由にとって彼は、恋人だった。
音楽教室に通う男子の中で一番の美しい子供だった。絵本から抜け出してきたヒーローのような力づよい大きな瞳は、他の子供たちや大人には見えないものが見えているかのように、稀有(けう)な色を宿していた。
実際、彼は時々不思議な言動で周囲の大人を困惑させていた。
“練習曲なんて、なんの色も見えないからつまんない”
教室でも、こんなことを言っては先生を困らせたりした。
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