夜明け

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夜明け

あけ方、伊織は静かに起きると ベッドの端に腰かけて 衣服を身に着け始める。 下着を履き、靴下、ジーパン。 かがんだ上半身の影。 背骨の浮き出た背中、ジーパンを履こうと膝を上げる所。 立ち上がって上半身はだかのまま腰まで上げる所。 かすかに衣擦れの音。 伸びたすんなりとした腕、 余計なもののついていないお腹のあたり。 眠ったふりをして、薄目を開けてじっと見ている。 アンダーシャツ、ボタンダウンシャツ。 シャツを着るのに伸ばした腕、ボタンをはめる指。 押入れを開け、タオルケットを一枚出して布団の上にかけ、 壁の桟に打ったクギにひっかけたジャケットをとって羽織る。 鍵を持って外に出て、鍵をかけ、新聞受けからこちらに落とす。 鉄階段を降りる音がとぼとぼと遠ざかる。 しばらくして、おかしなことに気づく。 エンジン音がいつまでも聴こえてこない。 窓からのぞく。 フロントグラスの向こう、運転席で伊織が ハンドルに肘をついて目のあたりを両手で覆っている。 口許が、歯を食いしばっているようにも見える。 こんな子を巻き込むんじゃなかった。 「こんな、バカな子。」 どうしようもなくなって、泣いた。 今まで関係した男の事で泣くことなんて無かった。彼を自由にしてあげなくちゃ…。 私がどうにかなりそうだ。 もう呼び出すのを止めよう。 私が他所の男と寝ようがこれっぽちも気にかけない 私には体以外に興味もない それでいて私が満足できるような男をさがさなくちゃ。 でも、できるだろうか。 伊織を自由にすると考えただけで体中が抵抗するというのに。 そう考えた時、エンジン音がして、車の音が遠ざかって行った。
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