見舞い

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見舞い

結局私はひと月とがまん出来ず、伊織に連絡してしまった。 体調を崩し動けなくなってしまったのだ。 お互い仕事の都合がつかず、1カ月逢えない事もたまにはあったけれど 伊織を自由にしようと思ってから連絡してしまうまでの期間は、 ひどく長く感じられた。 私は胃腸炎と風邪をいっぺんに引き受けて、 熱と下痢と食欲不振で、2日ほど体を起こすこともできずにいた。 母でもなく、友人でもなく、伊織を頼ってしまったことに 気が引けて 体調悪く伏せっています とだけメールを入れたら、 その日の夕方、電話がきた。 「話できますか。」 しばらく聞いていないと、声も懐かしい。 具合が悪いのに、気持ちがなんとなくはずんでくる。 「うん。」 「買ってきて欲しいものとか、食べたいものはありますか」 水とレトルトのお粥を買って来てもらう。 また電話が来た。 「アパートの下にいますが…玄関まで来られますか。」 「うん…」 軽やかな、少し急いだ感じの足音が響く。 すぐにチャイムがなった。 私も電話を置いてすぐにベッドを出たけれど 脚に力が入らない。 足元がふらついてサンダルをつっかけるのも一苦労で、 2度目のチャイムが鳴ってやっとドアノブに手が届く。 開いたドアに引っ張られ 「ごめんなさい」 と言いながらつんのめって頭を伊織の胸にぶつけ、 伊織に支えられる。 伊織はスーパーのレジ袋を持っていた。 私を片手で支えながら中へ入り、 後ろ手にドアを閉じた。 レジ袋を置く。 「抱えますよ」 からだが浮き、 サンダルが足から落ちた。
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