見舞い

2/6
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/9ページ
伊織は私を抱きかかえベッドまで運ぶ。 スーツのままだ。 紺地に細い山吹色のストライプが斜めに何本か入った、 騎馬の姿が小さく、規則正しく刺繍されたネクタイ。 銀色のネクタイピン。 うすいクリーム色の木綿のワイシャツ。 その下の胸板。 汗臭い、汚れたパジャマ姿の自分が情けなくなる。 伊織は注意深く私をベッドに降ろし、毛布、布団をかけてくれる。 「何か飲みますか」 「うん」 上体を起こす。 伊織は玄関に戻り、レジ袋を台所に置くと、 スポーツ飲料のペットボトルと、 カップを戸棚からもってきた。 「水よりはましかも知れません。 水もありますよ」 椅子に掛けるとカップを電気スタンドのあるテーブルに置く。 「それ頂戴」 伊織はスポーツ飲料をカップに注ぐ。 喉が渇いていた。私は一気に飲み干してしまった。 一つ息をついているのを見て、伊織が 「微熱があるんですね」 と言う。 私が怪訝な顔をしたのだろう、 「さっき抱きかかえた時、少しからだが熱かったから…」 と付け加えた。 「何か食べますか。」 「髪を洗いたいの」 伊織に風呂を沸かしてもらい、 その間にレトルトのおかゆを温めてもらう。 寝室の障子をあけ放っているので、台所に立つ伊織の後姿が見える。 かっちりしたしなやかそうな背中、 すっきりとした腰の線、 お尻のあたりがわずかに丸みがある。 脚を少し広げ、しっかり立っている。 後姿もきれいな子だ。 ワイシャツを腕まくりして、 ネクタイを肩にかけている。 いつの間にそんな仕草をするようになったんだろう。 ズボンの線が1本、くっきりついている。 職場でだっていろいろあるのだろうけれど、 愚痴も言わない。 この子は社会人に、大人になったんだな 立派になっ たんだなと思う。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!