見舞い

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伊織は私を抱きかかえベッドまで運ぶ。 スーツのままだ。 紺地に細い山吹色のストライプが斜めに何本か入った、 騎馬の姿が小さく、規則正しく刺繍されたネクタイ。 銀色のネクタイピン。 うすいクリーム色の木綿のワイシャツ。 その下の胸板。 汗臭い、汚れたパジャマ姿の自分が情けなくなる。 伊織は注意深く私をベッドに降ろし、毛布、布団をかけてくれる。 「何か飲みますか」 「うん」 上体を起こす。 伊織は玄関に戻り、レジ袋を台所に置くと、 スポーツ飲料のペットボトルと、 カップを戸棚からもってきた。 「水よりはましかも知れません。 水もありますよ」 椅子に掛けるとカップを電気スタンドのあるテーブルに置く。 「それ頂戴」 伊織はスポーツ飲料をカップに注ぐ。 喉が渇いていた。私は一気に飲み干してしまった。 一つ息をついているのを見て、伊織が 「微熱があるんですね」 と言う。 私が怪訝な顔をしたのだろう、 「さっき抱きかかえた時、少しからだが熱かったから…」 と付け加えた。 「何か食べますか。」 「髪を洗いたいの」 伊織に風呂を沸かしてもらい、 その間にレトルトのおかゆを温めてもらう。 寝室の障子をあけ放っているので、台所に立つ伊織の後姿が見える。 かっちりしたしなやかそうな背中、 すっきりとした腰の線、 お尻のあたりがわずかに丸みがある。 脚を少し広げ、しっかり立っている。 後姿もきれいな子だ。 ワイシャツを腕まくりして、 ネクタイを肩にかけている。 いつの間にそんな仕草をするようになったんだろう。 ズボンの線が1本、くっきりついている。 職場でだっていろいろあるのだろうけれど、 愚痴も言わない。 この子は社会人に、大人になったんだな 立派になっ たんだなと思う。
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