見舞い

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部屋の灯りがついているので居留守はできないだろう。 人影だって見えたかもしれない。 伊織と顔を見合わせる。 「俺、出て見ますか。」 「…悪いわね。」 伊織が玄関に出て行った。 狭い部屋だから声が細々と聞こえる。 「こんばんは…あ、私、椎名さんの勤務先の上司で、 杉本と申しますが、ええと…一度お会いしてますね。 施設に来られた大学の後輩の…」 杉本は伊織が2年以上も前に憩いの家に現れたのを覚えていた。 「森田と申します。その節は。…椎名さんは今やすんでいますが…」 伊織が病状を簡単に説明したようだ。 「まだ起きられない状態ですか。……そうですか。 いえ、仕事のことで、資料を持ってきたのですが、 ちょっと椎名さんじゃないと分からないもので…」 杉本が食い下がる。 権限はあるんだから いいように判断して処理してくれればいいのに、 と私はイラつく。 「少々お待ちください」 伊織が戻って来た。 「仕事の話らしいですが…」 渋い顔の私を見る伊織は少々困惑気味だ。 きっと私と寝た男だと、もう気づいただろう。 「いいわ。森田君ごめんなさい、そこに掛かっているガウン とってくれる」 ガウンの襟をきっちり首のあたりまで上げ、靴下を履く。 立つ時ふらついて、伊織が心配そうに支えてくれる。 玄関へは一人で出た。
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