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ある日、夏がやってきた。比喩でもなんでもなく、物理的に。
「おーす! アタシ千代子堂夏! アンタに青春させるため、未来からやってき――」
とても怖かったので、俺は玄関のドアを閉めることにした。
『ちょ、何で閉めるかねアンタは!?』
扉の向こうでわめき散らかす女。
気が狂ったような蝉の鳴き声が、やけに鮮明に聞こえた。
騙された。クロネ〇ヤマトだと言われたから玄関を開けたらこれだ。いつもは開けないのに。
チョコドーナツ? ふざけた名前だ。怖い。体の震えが止まらない。このまま帰ってほしい。
扉向こうでまたも女が叫ぶ。
『ちょっとー! 開けてー! 開けないとご近所に無いこと無いこと吹き込んで回りますよー!』
せめて有ることも吹き込んでほしい。
『わかった! 有ることも吹き込むから! 友達いない根暗野郎だってー!』
ヒェッ。心を読まれた。
「ざっけんな! やっていいことと悪いことがあるだろ!」
俺はささやかだが必死の抵抗をした。
『じゃー、さっさと扉を開けろー! この童貞くそ野郎ー!』
「お、女の子がそんな言葉を使うんじゃない!」
『お。今のいいの? 差別発言じゃない? コンプラ的に問題アリ寄りのアリじゃない?』
「うるせぇ! 古いんだよ! てか、誰だお前は!」
『いや、それ説明するからそろそろ扉開けてくんない? こっち超暑いんですけど。わぁー、マジ倒れそう』
「……」
一瞬考え、俺は扉ののぞき穴から外を見る。外には金髪ツインテールで、チューブトップにデニムのショートパンツの格好をした、痴女寄りの女がいた。
顔は、プラダを着た悪魔の時のアンハサウェイを、若干日本人寄りにしてふっくらした感じ。俺の言ってる意味が分からないと思うけど、俺にもよくわからなくなってきた。つまり美人ってことだ。後おっぱいがすごくでかい。
ごくり。
俺は息を飲んだ。その女のおっぱいの谷間がやけに狂暴だったのだ。
『お、興味ある? 興味あるんだ? やっぱ若いねー。ドア開けたら触らせてあげるよ!』
何故俺の考えが読まれたのかは不明だが、千代子堂夏は自分の胸を寄せてあげ、のぞき穴に強調するように見せつける。
「はぁ!? 別に興味ねぇし!」
全くの嘘だった。物凄く興味があった。
『ねぇ、ホントマジで開けて―。暑いよー』
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