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「なんだかなー違うんだよなー。あ。そだ。ほら、これ。四次元バック」
千代子堂夏の持っていた、サマン〇タバサのこの夏新作似のバックを開くと、なにやらうにょうにょした空間につながっている。
千代子堂夏はそこに手を突っ込むと、メンソ〇ータム似のリップクリームを取り出した。
「ね?」
「ね? じゃねぇよ! なんだよこれ!?」
「これは『ポロリップ』って言って、塗られた人は本音しか喋れなくなるの」
「は!?」
「まぁまぁ。まずはお立合い」
そう言いながら、俺の千代子堂夏は俺の唇にリップを塗ってくる。
顔が近くなり、千代子堂夏の体温が感じられた。
柑橘系のリップの香り、さらに千代子堂夏の甘い香水の香りに、ほんのり汗の匂い。マジかよ。これがアンドロイドなら未来の技術が半端ない。
あと俺の愚息が半端ない事になっている。
「こいつ超いい匂いする。あと俺の愚息が超元気」
俺の口が、勝手に動いていた。俺は慌てて口を押える。
「うわぁ、気持ち悪い」
千代子堂夏が目を細めて、嫌そうに「うわぁ」と言っていた。
よし――
「死のう」
「うわぁ、嘘ごめんごめん!」
俺が外に出ていこうとするのを、千代子堂夏が抱きしめてきながら全力で止める。
「うわぁああああああ。おっぱいの暴力だよぅ!!」
「またおっぱいかよ……」
「おっぱいが好きなんだよ!!」
「やっぱアンタ、超メンディー……」
「はぁ?」
「いや、未来のアンタって、『お尻が超好き』とか言いつつやっぱおっぱい党だったし」
「それは政党かなんかなのか……?」
未来の僕は一体どんな人間だったんだろうか。
「とりあえず死にたい」
「やめて。……んで、結局死ぬ間際になって、『あー、学生の時もっと青春しておけば、俺はその体験をもとにお前たちをもっと人間に近づけ……初彼女にできたのに!』って言いだし始めて」
「……え。もしかしてそんなくだらない理由で?」
「そう。そんなくだらない理由で、アタシがとりあえず来たってわけ。タイムパトロール? まぁ、時間を管理してる奴らがいるんだけど、そいつらの目をかいくぐってやってきたってわけ。あたし超偉くない? ……なんでそんなとこで蹲ってるの?」
俺はがっくりと玄関の敷石の上で膝をついていた。
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