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背筋に冷たいものが走る。
顔を上げると杉本は目をそらして煎茶をすする。
「あの男の子って、森田君のことですか。」
声が震えた。
「ああ。そうそう、森田って言ったっけ。
森田学園の教員なんだってな。
名門私立の教員がなあ。あれ、セフレだろ君の。
どう見てもただの後輩じゃないよね。
付き合ってるなら僕とホテルに行ったりしないしな。」
「…」
言い返せない私に向き直り、杉本がじろり、と睨めつけてくる。
「今までのことはいいさ。
だけど結婚を前提につきあうならあんなのに居てもらっちゃ困るのは
君だってわかるだろ。
あいつにも言っておいたよ。おまえセックスしに来てるだろ
こんな恥ずかしい事して
それで教員なんてよくやっていられるな、
職場にばらされたくなかったら二度と来るなってね。」
「なんてことを…」
とうとう私の事で、伊織が仕事を失う?
血の気が引いて行くのが分かる。
「あいつも肚が据わっているというか、さんざん言われても
大学の後輩という事以外、なんの関係もありません。
椎名さんが好きな男性と結婚するなら心から祝福します、
全部椎名さんしだいですって
涼しい顔でぬかしやがった」
胸がつぶれる思いとはこのことだ。
あの日の、フロントグラス越しに見た伊織の姿が目に浮かぶ。
「なんだかあいつには似合わない華奢な指輪なんて嵌めてるのな」
Tu es a moi -
突然、彼がネクタイの代わりに欲しがった指輪の内側に書かれていた
フランス語が頭に浮かんだ。
「あの指輪、私が上げたのよ」
「え?」
「内側になんて書いてあるかご存知?
あなたは私のものってフランス語で書いてあるの」
杉本は驚いたようだった。目が大きく見開く。
「伊織はね、とっても素敵な体をしているの。
私大好き。だから私のものにしたの。
あの指輪は、伊織は私のものですっていう印なのよ。
セックスもうまくなったし、
どうすれば私が悦ぶのかちゃーんと知ってるし、
伊織は、私のことホントに愛してるの。
あの子は私のものだから、私とあの子のことで
言いたい事があったら私に言って。
彼には一切関わらないで」
「関わらないでって…」
「一度寝たくらいで自分の女みたいな言い方しないで下さい」
いきなり平手打ちが飛んで来た。
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