夜景

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夜景

翌日職場に行くと、 私は母の介護のために退職することになっていて、 雇用保険はすぐに出ると言う。 杉本はいなかった。 施設長に呼ばれた。 「残念ですね。お母さまが落ち着いて、働けるようになったら 連絡下さい。すぐ受け容れますよ」 と言ってもらえた。 翌日は午前中は履歴書づくり、 午後からO市のハローワークへ行く。 いつもいつもここは人でごった返している。 離職票が届いていないので失業保険の手続きができない。 求職の登録をして、 何十台と置いてある専用パソコンの順番を待って、 やっとありついたパソコンの前に座り仕事を探す。 介護関係の仕事はたくさんある。 仕事自体が多いと言うより、回転が速いから。 遅くに出てきたせいか いくつか紹介状を貰い、さっそくひとつ面接が決まったのは 閉所時間間際の5時半だった。 バスを待っていると、伊織から連絡が入った。 「今、どこですか?」 「森田君。珍しいわねえ。ハロワ前の停留所」 「あ、こっち出て来てるんですね。今迎えに行きます。」 伊織の方から連絡してくるのは珍しい。 10分もしないうちに彼の車が横付けされた。 街のレストランで食事する。伊織が支払ってくれた。 憩いの家を退職したことは言ったが、 理由は言わなかった。人前ではとても言えない。 「たまに俺の部屋に来てみませんか。近くなんです。」 そういえば伊織の部屋へは行ったことがない。 着いた先は何と、 O市きっての高級マンション。 「ここに住んでるの?」 車を立体駐車場に入れ終えた伊織はエントランスの セキュリティコンシェルジュに軽く会釈する。 驚いている私の背中を軽く押して歩くよう促す。 ヒールの音がコツコツと小気味よい音を立てる。 「たまたまです。 前は親父が仕事に使ってました。 使わなくなったから住めって。 親父がまた仕事で使うようになれば、 出なきゃいけないんです。」 「こんなところに住んで、 あなたよく私のボロアパートに泊れたわねえ。」 と言うと、 伊織は笑いながら 「こぢんまりして居心地よかったです」 と言う。
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