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エレベーターにカードキーをかざす。
エレベーターが着いたのは最上階。
ドア脇のテンキーに暗証番号を入れ、さらにカードキーを挿入する。
広い玄関にサンダルと、スニーカーが1足ずつ。
靴箱の上の壁にシルクスクリーンプリントが飾られている。
「ウォーホール?」
私は驚きまた立ち止まる。
「そう言ってました」
伊織が壁のスイッチを押してリビングの明かりをつける。
「窓から夜景が見えますよ。そこだけ明かりを消すと
綺麗に見えます。」
父親が使っていたままなのだろう、
豪奢な戸棚に高価そうな食器やグラスが並んでいた。
壁に埋め込まれたテレビ、立派な額縁に飾られた絵が壁に数点、
クリスタルガラスの灰皿が乗っている大理石風の石のテーブル、
黒い、皮のソファの応接セット。
なんと暖炉まである。
それぞれがやけに整然として、あまり使われていないみたいだ。
広いリビングの向こうには壁いっぱいにとった窓と、ソファが一つ。
脇にテーブルが置いてある。
「リビング殆ど使わないんです。
使っているのは窓の前の長椅子とキッチン、寝室くらいです。
寝室に机があるので持ち帰り仕事はそこでしてます。」
伊織は照明を落とし、窓の所は明かりを消した。
「どうぞ」
私は伊織に勧められたソファに座った。
「わぁー」
ガラス戸いっぱいに夜景が広がっている。
この街ってこんなにきれいだったんだ。
「何か飲みますか」
みとれている私に、背広を脱ぎながら伊織が尋ねる。
「あ、いえ。お構いなく…」
夜景に気圧されついつい他人行儀な口調になる。
伊織は背広をハンガーにかけ、ネクタイを緩めながら
はい、と小さく答えうなずく。
ネクタイをはずし終わると、隣に座る。
「何か職場でありましたか。」
「クビのようなものね。雇用保険はすぐ出るみたいだけど。
一つ面接が決まったの」
「仕事、うまく行ってたように見えたけど…」
「職場の上司にとんでもない事言っちゃった」
「職場の上司って…この前見舞いに来た…杉本さん?」
「うん。森田君気づいてた?あなたの指輪。
内側にフランス語であなたは私のものって書いてあるのよ」
「はあ…そうでしたっけ。」
何故か伊織はとぼけているみたいだ。
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