夜景

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伊織は私の髪を撫でるのが好きだ。 そして髪にほおずりしたあと、唇が額に、頬に、首筋にと降りて来た。 唇が触れたところから、絡めた指から、 伊織の重みを感じている所から、 花が咲くみたいに火がついていく。 突然、バシッと、窓で大きな音がする。 「あ、鳥」 伊織は起き上がり、ソファの端に腰かけてため息をつく。 「よくあるんです。明かりを消していると、 鳥が突っ込んで来るんです。死んでなきゃいいけど。」 「見られてるみたいね」 「…寝室行きましょう」 伊織は急に私の体の下に腕を入れると立ち上がる。 私は小さく悲鳴を上げた。 「お姫様抱っこ。女の子は好きだって聞いたんだけど」 私もう女の子じゃないわと僻んでみるけど、口には出さない。 女の子じゃない私を、伊織は当たり前のように抱き上げる。 私は伊織の首に腕をまわす。 「女生徒がやってほしいって言ってましたよ」 「やったの?」 みじめなくらい動揺する。 この子が好きだ。どうしようもない。 「まさか」 伊織は軽々と私を寝室へ運び、 暗い部屋のベッドに慎重に寝かせる。 「つきましたよお姫様。 花嫁さんならいいのに」 伊織がベッドサイドのスイッチを押すと、 柔らかい明かりがベッドの周りだけ照らす。 「伊織。」 ベッドの端に腰かける伊織の頬に手を差し伸べ、 瞳を見つめる。 伊織は驚いたような、戸惑ったような顔をしている。 私は伊織がせっかく寝かせてくれたベッドに起き上がり、 思い切り抱きしめる。 「伊織。大好き…大好き。」 少し間があって、おずおずと私の背中に手が回される。 きつく抱きしめた。 再びベッドに寝かせ、私の額を撫でる。 泣き笑いしているような、見せた事のない顔。 「やっと言ってくれた」 それからあとのことはよく覚えていない。 伊織の腕の中で、多分私は何度も正気を喪わされた。 ずっと、溶けてなくなってしまうような、それでいて、 伊織をぜんぶ包み込んでいるような感覚が続いていた。
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