第1章

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 やっぱり昔の仲間はいいな。どんなものにも代え難い特別な存在だ。  何十年ぶりかの同窓会への参加だったが、久しぶりに心の底から笑うことができた。懐かしい顔に会った瞬間、何も考えず、無邪気に生きられたあの頃に引き返すことができた。  しかし、それにしても驚いた。  学生時代、冴えなかった加藤が今やそこそこの会社の重役だものな。  佐川だってたいしたものだ。IT関連の企業で人工知能の開発に携わっている。  親から酒屋を受け継いだ斎藤は明るく振る舞ってはいたが、どこか疲れているように見えた。店の経営が厳しいのかもしれない。相談してくれれば、こんなおれでも少しは力になれるかもしれない。  大病したヤツもいる。  木村だ。もう身体のほうは大丈夫だとは言っていたが、本当だろうか。ただ、みんなに心配かけないように気をつかっているだけじゃないのか。  あいつは昔からそうだった。自分のことより、回りの人の気持ちを優先していた。それで損ばかりしていたんだ。  加藤や佐川のように傍目には安定した仕事をしているやつも、親の介護や子供の教育など、多かれ少なかれみんな悩みを抱えている。それを隠しながら懸命に生きているのだ。そう考えると、思わず、涙ぐみそうになる。最近、どうも涙もろい。  おれ自身にもいろいろあった。  大学を卒業後、一般企業に入ったが辛抱が足りなくてすぐに辞めてしまった。そこそこ大きな会社だったし、福利厚生などもしっかりしていた。だが、ここよりもっと良い場所がある。おれはこんなところでくすぶっている人間じゃない。そんな風に思ってしまい、後先考えずに飛び出してしまった。今考えるともったいないことをしたものだ。  よくいえば楽天主義。だが、ただ自分の能力や社会の仕組みを知らない、無知で無謀な若造に過ぎなかっただけだ。  その後は会社を転々とし、将来がまったく見えない時期が続いた。一時は精神を病みかけたこともある。  だが、生きていれば、みんな何かしらあるものだ。おれだけが大変だったわけじゃない。  実際、早くに病気や事故で亡くなってしまう人もいる。この年まで生きてこられただけでも十分幸せなことじゃないか。だんだん残り少なくなっていく人生の時間を大切にしていこう。  同窓会からの帰りの電車の中、過ぎ去っていく窓からの風景を見ながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。
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