第1章 記憶

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遠い記憶の断片。 覚えているのは、スローモーションのようにこちらに向かってくる、一台の白い自動車。 足が竦みどうする事も出来ない私を、不意に横から伸びた腕が強引に抱き締めた。 怖くって。 無我夢中で。 私はそのひとに力の限り、しがみついた。 応えるよう、その腕もまたより一層力を籠めて私を抱く。 何かが身体の一部に衝突する感覚。 通行人や、騒音を聞きつけて家々から出て来た人達の悲鳴。 安否を気遣う人だかりが、私達ふたりを取り囲む。 恐怖の出来事はようやく終わったのだと悟った瞬間。 私は堰を切ったように、ぼろぼろ涙を零し始めた。 そんな私の頭を優しく撫でる、大きな手。
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