†7月19日†

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1時間もたつと、さすがにみんな思い思いに連れ立って下校していった。 残っているのは、数人の不運な星の元、もとい、や行やわ行の名字の家に生まれた子たちだけだ。 「おい、ワタナベ。」 後ろからつつかれる。振り向くと、ワタベが突っ伏したまま片手だけ伸ばしていた。 いつの間に窓を開けたのか、夏風で短髪がちょっとなびいていた。 「何?」 「つまんないからなんか話して」 何か月振りだろう? ワタベは家が近所で、おむつをしてた頃からの幼馴染だ。 ここ1年はまともに話していなくて、話していない時間が長くなればなるほど、何を話していいかわからなくなった。 手抜き教師のおかげで、ずっと席は前後ろだけど。 「う・・・ん。天気いいよね」 「つまんねー」 「好きなアイス」 「知ってるでしょ」 「きのこの山派?たけのこの里派?」 「つまんねー」  ワタベは一向に頭を上げなくて、あたしは会話のゲシュタルト崩壊を起こしかけていた。 「・・・じゃあ今日の予定」 「もんじゃ」 「七海先輩と?」 ぴくっと空気が動くのが分かった。 やっと頭を上げると、あたしとは目を合わせないで答えた。 「なつみは留学の準備で忙しいから。」 「そうか」 ワタベが「なつみ」と言うのを、久しぶりに聞いた。 窓から吹き込む夏の香りと一緒に、あめ玉を転がすような甘い響きがした。
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