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 恐る恐る目を開けてみる。背の高い彼が目の前で見つめてきていた。  黒板についた両腕に挟まれて逃げられない。 「ふざけるなよ」  初めて怒った顔を見た。泣きそうなくらい真剣で、でもわたしは思っていた。  すごく綺麗だ、と。  真剣な顔をして、感情を露にする樹くんは本当に美しい。  いつも気だるそうにしている樹くんとは比べ物にならないくらい、カッコいいと思った。 「オレの気持ちを掻き乱して、そのくせ冷たい態度でまたオレを混乱させる」 「そんなの、わたしは知らない」  静かな教室。  開いた窓から蝉の声。ついで葉が擦れる音が、わたしの心を掻き乱す。  やめて。これ以上、冷静でいられない。 「なんで……」  樹くんは下を向いて、掠れるような声で言った。 「知らないよ」 「七海はなんで、他の奴らと違う! オレを正面から見ようとしない!!」  何となく言わんとしていることがわかったわたしは、彼を鼻で笑う。本当にわたしって、嫌な女。  でも樹くんだってそうだったじゃない。  樹くんを囲む女の子たちを正面から見ようとしないで、面倒くさそうに相手してたじゃない。
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