4人が本棚に入れています
本棚に追加
恐る恐る目を開けてみる。背の高い彼が目の前で見つめてきていた。
黒板についた両腕に挟まれて逃げられない。
「ふざけるなよ」
初めて怒った顔を見た。泣きそうなくらい真剣で、でもわたしは思っていた。
すごく綺麗だ、と。
真剣な顔をして、感情を露にする樹くんは本当に美しい。
いつも気だるそうにしている樹くんとは比べ物にならないくらい、カッコいいと思った。
「オレの気持ちを掻き乱して、そのくせ冷たい態度でまたオレを混乱させる」
「そんなの、わたしは知らない」
静かな教室。
開いた窓から蝉の声。ついで葉が擦れる音が、わたしの心を掻き乱す。
やめて。これ以上、冷静でいられない。
「なんで……」
樹くんは下を向いて、掠れるような声で言った。
「知らないよ」
「七海はなんで、他の奴らと違う! オレを正面から見ようとしない!!」
何となく言わんとしていることがわかったわたしは、彼を鼻で笑う。本当にわたしって、嫌な女。
でも樹くんだってそうだったじゃない。
樹くんを囲む女の子たちを正面から見ようとしないで、面倒くさそうに相手してたじゃない。
最初のコメントを投稿しよう!