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「前にも言ったでしょ? 贅沢だって。樹くんが笑えば、みんなしっぽ振ってついてくる。いいじゃない」
ダンッとまた後ろの黒板が音をたてた。
「放課後。オレに会いたくて、わざと忘れ物してるかと……」
「違うわ。今日だって樹くんがいるなんて、忘れてたくらいだもの」
やっと正面を見た樹くんと目が合う。
ずっと下を見ていたせいか、前髪が目にかかっている。前髪の向こうにある鋭い瞳が、わたしを見つめて離さない。
「ずっと会いたかった」
まるで懇願するように言うから、わたしはいい気味だなんて思ってしまった。
いつも、みんなにちやほやされている樹くんの余裕ない表情。わたしだけが知ってる、樹くん。
そうだ。
樹くんは今、わたしを振り向かせようとしている。樹くんを囲んでいた女子たちと同じ気持ちでいるの?
まるで立場が違う。
あれだけ冷めた表情をしていたのに、どうしてわたしにはそんな切ない顔を向けるの?
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