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 樹くんは毎日、いろんな人に話しかけられてうんざりしているみたいだった。でも、わたしには贅沢すぎる悩み。  少し、イラッとした。 「わたしなんて、待ってても誰も話してくれない。特に男子なんか見向きもしないんだから」  わたしの言葉に、樹くんはクスッと笑う。ちょっと失礼だ。 「オレは羨ましいけどな。えっと確か……七海ちゃん?」 「すごいね。名前知ってるなんて」 「オレの特技だよ」  そう言って樹くんは立ち上がった。カバンを持って、やっと帰る気になったみたい。 「一緒に帰る?」 「誤解されたくないから、やめとく」  残念だなと、からかうように笑って教室を出ていく。そんな樹くんを見送って思った。  なんだ。みんなと変わらない普通の高校一年生だよ。  それがどうして、あんなに人気があるんだろう。考えて、ため息まじりに答えが出た。 「顔だな、確実に」  悲しい現実を見てしまった気がする。
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