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「樹……くん」
急に思い出す。忘れてしまいそうな、つまらない会話の数々を。
淋しそうな顔。横顔。日に照らされた綺麗な、樹くんのこと。
「……久しぶり」
久しぶりというのもおかしな感じ。同じクラスで授業受けたり、すれ違ったりはしていたのだから。
樹くんは、クラスで見せる笑顔とは違う淋しそうな顔をしていた。初めて会った日の横顔と同じ。
「探してるの、これだろ?」
「え?」
なぜ樹くんがわたしのスマホを持っているの?
もしかして、拾ってくれた? どこかに落ちていたのかもしれない。
そんなことを思っていたら、
「ごめん」
樹くんは急に謝った。
どういうことなのかわからないでいると、樹くんは微笑んだ。
「七海ちゃんに会いたくなった」
言うまでもなく、わたしはドキッとした。あんな笑顔で言うなんて反則。
あんなふうに、みんなに笑顔を振り撒いているんだろうか。
そう思ったら、何か……すごくイライラした。
「勝手に持ち出して、ごめん」
樹くんは教壇のあたりまで歩いてきてスマホを差し出す。
わたしは気持ちを抑えるように呼吸しながら、樹くんのところまで歩いていった。
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