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赤いスマホを受け取る。
手は震えていなかっただろうか。誤魔化すように、すぐにカバンに入れる。
何を言えばよかったのかわからなくて、ずっと無言だった。
この間まで、あんなに喋っていたのに。
わたし、どうしたんだろう。樹くんだって、らしくない。
「じゃ、帰るね」
だから、もう帰るしかなくて樹くんに背を向けていた。
「待てよ!」
樹くんに右手を掴まれて、驚いてカバンを落とす。静かな教室にけたたましい音が響いた。
中身が散乱。拾うの大変そうだな。なんて考えながら、手を掴んだ樹くんの顔を振り返る。
また淋しそうな顔をしていた。
「なに? 帰りたいんだけど」
冷たくしてしまったのは、この気持ちがバレないようにしたくて。
今まで気づきもしなかった気持ちが、なぜ今頃――――。
だから早く離れたかった。じゃないと……。
わたしは無理やりその腕を振り払う。
カバンなんてどうでもいい。教室を出たい。離れたい。
慌てて一歩を踏み出した時、樹くんに押されるように黒板で頭を打った。
「い――――」
痛いと言う前に、樹くんの両腕が風を切る。激しい音にびっくりして目を瞑ってしまった。
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