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 ◇  うだるような暑さなんてよく言うけど、まさに今日はそれ。  やっとテストが終わって、あと二週間で夏休み。  高校生になって初めての夏休みは、何か特別な感じがする。何をして過ごそうか、今から楽しみで仕方ない。  まあ、そんな油断もあったのかな。  宿題を出されている数学の教科書を教室に忘れてきた。そろそろ直したいと思っている忘れ物癖。  これで電車に乗り遅れるのは確実。一本ずらすと、他校のラッシュになるから嫌なんだけどな。 「ついてない」  忘れ物したのがいけないのだから、仕方ないか。自業自得だ。 「あれ、七海(ななみ)。帰ったんじゃなかったの?」  入ろうとしていた教室から、友達が笑顔で出てきた。どことなく顔が赤いのは気のせい、かな。 「数学の宿題あるのに教科書忘れて。駅で思い出したの」 「うわー。それはお疲れ様。じゃあ、また明日」 「うん、バイバイ」  一通りの会話を済ませると、彼女は名残惜しそうに教室を見てから歩き去った。
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