恋の化学式

１

「いつ、気付いたんですか？」
「最初から」
「最初から？　それで、知らぬふりをしていたんですか？」
「ああ。無記名だったから、名乗り出たくないのだろうと思った。その意志を尊重させてもらった」
「先生……」

　君がくれたんだろと在学中に言われたら、二度と出さなかっただろう。

「ラベンダーの香りは君とのいい思い出となったよ」
「先生……」

――いい思い出となった。

（過去形ですか……）

　ちょっと、寂しくなった。

『言えなかった気持ち』

　やはり、遠回りせずにちゃんと言えば良かったと後悔していたら、加藤先生が言った。

「で、卒業もしたことだし、僕から君に伝えたいことがある」
「なんでしょうか？」
「僕が言えなかった気持ちを、僕からも君に伝えたいんだ」

　何を言うんだろうと黙って聞く。