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ブレーキはダイナマイトではない。
それは例えるならば導火線に灯された火。
ヒューガにとってのフットブレーキは荷重移動に過ぎなかった。
沈み込むフロント。
荷重を失ったリアタイヤ。
仕上げに、左へ急ハンドル。
そして、ダイナマイトの爆破。
ヒューガが踏んだのは、アクセルだ。
空転するリアタイヤは滑りながら反時計回りに車体を回していく。
NSXの平たい巨体を振り回し、白煙を巻き上げながら直角左コーナーを攻略していくヒューガ。
リアバンパーがガードレールを掠める。
右手は山肌。
それをこの速度で転がり落ちれば、転落で死ぬか樹木に激突して死ぬか湖に落ちて死ぬかすら選べない。
だが、ハンドルを握るのはミラノストリート最速の女。
ヒューガ・エストラーダ。
高いヒールで繊細にエンジン回転数を調整しながら、凄まじいスピードでコーナーを駆け抜ける。
ブレーキングで失ったわずかなスピードを除けば、スピードのロスはゼロに近い。
このドリフトこそがヒューガの十八番だ。
ルームミラーから後続のヘッドライトは消えた。
あとはこのドリフトを保ちながら、つぎの直角左コーナーへ突っ込…、
「ッ!!!!????」
確かに、NSXの後方にヤツはいなかった。
それは当たり前のことだった。
ただしそれは、ヒューガのドリフトが完璧だったからではない。
後方、ではなかったのだ。
右方。
コーナーのアウト側から飛び出したS2000は、NSXの運転席側にぴったりと張り付いていた。
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