Prologue ~墜落~

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なぜだ。 先程のコーナリングは自分の中の理想に近いラインをなぞれていたはずだった。 それに加えて、コーナー頂点ではガードレールを掠めるほどスペースは開けていなかったはずだ。 だとすると、考えられる可能性としてあるのは一つ。 コーナー出口でヒューガが出した僅かなオーバーステアを見切り、針の穴に糸を通すように車体をねじ込んだ。 しかも、コーナー自体への進入速度はヒューガと同じかそれ以下で、出口でそのエクステンドを弾き飛ばすほどのトラクションを、それも瞬間移動レベルの加速力を発生させたということか。 ありえない。 考えられる可能性のどれもがありえない。 レース序盤でルームミラーから消すくらいの展開しか頭になかった。 ならばここまで追い詰められていること自体がありえないか。 だが、さすがにヤツにももう後はない。 次のコーナーも左、インにいるのは自分だ。 そこで車1台分前に出て、あとは残りわずかなコースをブロックしながら進めばいいだけ。 先にゴールしたならば、勝ちは勝ち。 あのボスは合理主義者だから、説明さえ下手しなければ賞賛してくれるだろう。 飲まれるな。 アウトにいるS2000と同じ速度で突っ込んで、ミスせずに駆け抜ければいい。 並んで直角左コーナーに突入する、NSXとS2000。 同時にブレーキを踏み、同時にスキールを開始した。 利があるのは走行距離の短いイン側。 NSXが半台分前に出る。 あとはブロックを…、   メキッ!!!! NSX車内に響く、鈍い音。 FRPの砕ける音。 バンパーだ。 NSXのフロントバンパー右側が悲鳴を上げた。 乱れる挙動をアクセルとブレーキで整えるヒューガ。 何が起きたのかを理解したのは、それから2秒後のことだった。  
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