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ヒューガが導き出した解答は、理不尽なドリフト。
ありえない光景だった。
ヒューガのドリフトは極限まで減速を抑えるのが特徴だった。
それでも微弱であれど、減速があるのは避けられない。
だがヤツは、違う。
ドリフトで減速しないどころか、むしろヤツは加速していた。
コーナー突入の速度を、脱出の速度の方が上回っていたのだ。
ヤツは、常識を覆した。
よってブロックに入ったNSXの右フロントバンパーを斜め後ろから弾き飛ばした。
前に出ている。
あのS2000が、前に出ている。
もうパスができるコーナーは残されていない。
ミラノストリート最速の女、ヒューガ・エストラーダ。
日本遠征にNSXという超兵器を持ち込んだ彼女に、敗北などありえないはずだった。
その光景が今、目の前に広がっている。
「嘘でしょう……!!??」
ミラノ最速の男を破って以降、そんな哀れな言葉を口に発したのはこれが初めてだ。
ゴールラインであるパーキングエリアへ、NSXはよろけるように立ち入った。
それに振り返ることもせず、颯爽と駆けて行くS2000。
ヒューガはNSXを降りた。
奥羽山脈から吹き抜ける、生暖かい夜風。
間も無く夏を迎える仙台の星空の下、ヒューガはNSXの天井を強く叩いた。
日本を舞台に画策されたミッション。
それは670馬力の女の墜落で、幕を開けることとなる───。
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