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───三日前、仙台空港。
イタリアに比べて女性は皆小柄で、長身にハイヒール、さらには純金色の長い髪を持つヒューガはやたらと目立つ。
セレブ気取りで購入したサングラスの下の目はおどおどと泳いでいる。
やたらとタイヤが耳につくキャリーバッグを引きながら、ヒューガは足早にエントランスから空港を後にした。
綺麗に舗装されたターミナルにはコンフォートのタクシーが所狭しと縦列している。
それらが皆エンジンをかけっぱなしにしているのは、ドライバーがエアコンで涼をとっているからだ。
日本は想像以上に日差しが強い。
太陽、焼きついたアスファルト、空気中に漂う排気ガス。
それらにサンドイッチされたならこんがり焼けのパティの気持ちが理解できる。
誰が豚肉だ。
私は670馬力の猛牛を駆るミラノのマタドールだったというのに。
ヒューガは少し苛立ちを覚えながら、耳に装着したヘッドセットの通話ボタンを押した。
通信先は、ミラノ。
ミラノにいる、ヒューガの雇い主。
《……うむ、久しぶりであるな。ヒューガ》
「まだ丸一日しか離れてませんよ、DVさん」
《誰が家庭内暴力だ》
JV、それは欧州最強のトランスポーターグループを統率する鋼の女。
その肩書きに見合わぬ幼女のような可愛らしい声は、自分がミラノにいようと日本にいようと慣れることはない。
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