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ピピピピピ、と目覚まし時計のアラームが鳴る。
画面は5:00の文字。アラームを止めて、欠伸をひとつ。
洗顔や歯磨きを終えたら、ドロワーズと、黒のハイソックスを履く。紺色のワンピースに袖を通し、編み上げのショートブーツを履いたら、白いエプロンを着ける。
廊下の下手な忍び足を無視して、ポニーテールを結い上げ、姿見の前で軽く一回り。ふわりとスカートが正円に舞う。うん、OK。
「あっ、と」
忘れものだ。シバババババババ。白いヘッドドレスを頭に着ける。パァン、パンパン。そうして、ベッドの上のしわくちゃになったシーツを掴んで──。
上空へと放り投げ、スプリンクラーの消火放水を避ける。もちろん、シーツ1枚で防ぎきれるはずもないので濡れないうちにシャワールームへ退避。
「うわ────────っ!!!?」
同僚の声が聞こえる。乱暴に扉が開く音。
「テメ、クソお嬢様、廊下でネズミ花火はすんなっつったろうがァ!!!!!」
「あ─────っ!!もっかいやってみたかったんだお───────っ!!!ごめんなさ──────い!!!」
廊下の怒号と半泣きの謝罪を聞きながら、私は雨合羽を着込んで、スプリンクラーを止めるためにシャワー降り注ぐ部屋を後にした。
廊下に出れば、湿気った火薬の臭いが鼻をついた。使命を果たし見事に散った燃え滓が数個と、志半ばで消火されたネズミ花火が十数個。思わず激戦区の戦場を思い浮かべる。命令を下したお嬢様と噛み付いたはずの同僚の姿は見えない。逃げて、追ったのだろう。
思わず合掌していると、背後のドアが開いた。
「おはよう、左近。今日は無事だったんだね」
「おはよう、……伏見。お前もな」
黒い雨合羽のフードを目深に被った同僚は「スプリンクラーのスイッチどこだっけ?」と歩きだした。「配電室になかったか?」と答えつつその隣を歩く。
紺小路家の一日は、毎朝こうして始まる。
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