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「それじゃ、次に告白されたら付き合おうかな」
「え、」
中身が半分ほどなくなった塩の瓶を僕の手に握らせ、先輩は傍に置いてあったスマホを手に取る。
「実は明日の夜、会社の可愛い後輩に食事に誘われてるんだ」
「え、えっ……」
「試しに付き合って、結婚して、子供作って、家族のために料理を作ってみるさ」
「あの、」
「ただ明日の午後八時に告白される予定があるから丁度いいってだけで、相手は誰でもいいんだ。家族が出来て、料理を振舞えればしっかりするらしいし」
ニコリ、と先輩が笑う。
「だから『次に』告白してきた奴と付き合うよ」
そう言ってスマホの電源が切られる。
外界との連絡手段が断たれて、明日の夜まで部屋の中には二人きり。
ニコニコと自分の勝利を疑いもしないその人は、身長の低い僕に合わせて屈むと、低い声で囁いた。
「でも、俺の料理を我慢してでも食べようっていう相手なんて、いると思う?」
結局この人は、自分の味付けを妥協する気など毛頭ないらしい。
僕は迷うことなく、容器の中に残っている全ての塩をみそ汁の中にぶちまけた。
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