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誰かに相談なんて、できるわけなかった。新しいプロジェクト任されて、これからって時だったから――こんなことで、足を引っ張られたくなかったの。だから必死で、感じる視線は全部思い込みにすぎないって考えるようにしてたんだよね。
そう、私が、新しい仕事を成功させたくてピリピリしてるせいで、過敏になってるだけに違いないって思おうとした。それ以外にありえないって思いたかった。私が想像できないような、対処できないような何かが起きてるなんて、そんなこと考えたくもなかったの。――こうして話すと、疑うべきはストレスによる妄想とか、そっちの方だと思うんだけど。ほんと、その時の私、余裕なかったから。そういうことも思いつかなかったのよね。ばっかみたい。
それで、私はどうにか自分を誤魔化しながら、ひたすら謎の視線に耐え続けてたんだけど。ある時、ついにそれは――起きたの。
夜、どうしても眠れなくてね。お水を飲みにキッチンまで来て、一息ついてた時。ちょっと腕が当たって、コップに立てたままにしてたお箸を落としちゃったのよ。ころころ転がって、それは棚の下に入り込んじゃって。ああ、埃だらけになっちゃう、って思いながらその下に手を伸ばしたんだよね。
…そう、ずっと悩まされてた視線について、私はその時どうしてだか、その一瞬だけ忘れてしまってた気がするの。視線を感じるだけで何も起きなかったから、慣れちゃってたのかもしれない。
隙間に手を伸ばして、すぐお箸まで手は届いた。ああ良かった、って手を引っこ抜こうとした瞬間。
誰かが、わたしのゆびを べろりと舐めたの。
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