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その無言電話はね、留守電に残してくるの。私が必ずいない時間――そう、仕事中。残業もあるけど、それでも私は平日の朝八時から十九時の間は確実にいないでしょ?その時間がわかってるみたいに、電話はかかってくるのよ。
それも、ただの無言電話じゃ、ない。
ピー音の後ね…しばらく、呼吸の音だけが聞こえてくるの。
しばらくして、それが――ぺちゃり、ぺちゃりっていう湿った音に変わってくるのね。粘ついていて、どこかぬめっとしたような、水音。最初は何かわからなかった。次は、何かを食べてる音なのかと思った。でも、何かを噛んでいるような音とは違うのよ。そう、それは、まるで――。
まるで。
受話器に耳をあてたまま、長く舌を伸ばして――受話器をべろべろと舐めてるような、そんな音だったの。
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