のぞきめ。

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 えっと、どこまで話したっけ。…ああ、そうだ。  留守電が入らないようにしてから、今度は違うことに悩まされるようになったの。今までは電話だけだったのに、今度は――視線に変わったのよ。  突然夜中に目が覚めて、首の後ろが痒くなるようなかんじがして――怖くなって辺りを見回すけど、誰もいない。もちろん、私は一人暮らしだし、猫とか犬とかも飼ってないわ。  誰もいない、真っ暗な部屋には私しかいないのに、誰かがいつも私を見てるような気がしてならなかったの。それも、どこか同じ場所から私を見てるってかんじじゃない。私の背中とかにぴったりくっついて、至近距離からずっとずっとずーっと…私の方を見ているような、そんな粘着く視線をずっと感じていたのよ。  部屋を出ても、トイレに行っても、キッチンに行っても、お風呂に入っていても、ベランダに出ても――その視線はいつもついて回るようになった。  あのカーテンの裏に、誰かがいつも立っていて張り付くように私を監視している。  あのクローゼットの中でじいっと小さな隙間をあけて、私が眠るのを待っている。  あるいは、キッチンで。食器とかが入っている棚に潜んで、私の足が目の前を通り過ぎる様を生ぬるい笑みで観察している。  ――そんなことを考え始めたら止まらなかった。普通にありえないのにね。カーテンと窓の隙間に、人が立てるようなスペースなんてない。そして三階の部屋のベランダに人間がそうそう侵入するなんてできるはずがない。  ましてや、食器棚なんてどうやって人間が入るっていうの?ムリでしょ、お皿があんなにきっちり入ってるのに。  それでも、その時私は、それら全部が“本当にある”と信じて疑わなかったの。だから、どこか狭い場所とか、隠れた場所を開くたびにびくびくしてた。私がそこを開いた途端気配は一瞬霧散するけど、それで安心できたことなんて一度もなかったの。霧散してもすぐそれは別の場所に移動して、私から一度も視線を外してはくれなかったから。
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