のぞきめ。

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 有り得ない、有り得ないでしょ?私の手がやっと入るような隙間だよ?人の頭なんて入るわけがない。そもそも、人間の身体が、あんなところにどうやって入るっていうの。  しかも、その、舐められた感触、おかしいの。  人間の体温じゃなかったのよ。氷みたいだったの。それなのに、べろり、ってものすごい唾液を含んだ舌で舐められた感触だけがはっきりあって――私は、もう無我夢中で腕をひっこめた。  そう、そうあれ、言うならあれは――死んだ人に、舐められたみたいな、そんなかんじだった。  何か、いる。  食器棚の下から、何かが、私を、覗いてる。  何かが。――何を?  それは、生きてる人間では、ありえない。  …思い至ってしまったらもうパニックだった。私はトイレに逃げ込んでた。私の部屋の中で、唯一といっていいほどまともに鍵がかかる場所。飛び込んで、がくがく震える腕でどうにか鍵をかけた。歯が、ガチガチ鳴っちゃって、舐められた手をきちんと洗うことも確認することもできなくて、ただただドアノブ握りしめて震えてた。  ドアの向こうで、ずる、って、何かが這いずるような音がして――ううん、それも、幻聴だったのかもしれないけど、私にはもう何が現実かそうでないのかも全然わかんなかった。とにかく“ヒト”ではない何かが棚の下から這い出してきて、私の方に近づいてくる気配だけを感じてたのよ。  来る。こっちに、来る。  このドアしかもう、私を守ってくれるものが、ない。  とにかくドアを開けられないようにしなきゃ、ってそれだけ必死に考えてドアノブに縋りついてた。いつもつけっぱなしのトイレの電気が照らす、オレンジ色の狭い、箱のように狭い部屋。しゃがむことも座ることもできず、まっすぐ立つこともできないままガタガタ震えてた。もう、怖い怖い怖いって、それだけしか考えられなくなってたの。  そして。
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