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(いいご身分なこった)
盛大な欠伸を噛み殺しながら、布団の中で丸くなる。夜通し酔っ払い客の相手をさせられた遊女は、夜明けと共に去る客を見送ってから、ようやく床につくことができる。この頃には前後不覚になるほど疲労が押し寄せているのが常だが、身体を求めない榛名の相手をした日は、普段の半分も疲れを感じない。それでも、眠いものは眠い。
次に目を覚ますのは、浅草寺の鐘が四つ鳴る頃。赤城はたいてい、起き抜けると湯屋へ向かう。楼閣にも内湯が備えてあるにはあるのだが、なにせ狭いし陰気臭い。同じ理由で、わざわざ吉原内にある湯屋を使う遊女は、案外多かった。
部屋持ちともなると、教育を任された禿がいる。赤城の場合、今年で十四になるあさひがそうだ。
器量としては中の中。低めの鼻が覇気のない顔を助長しているあさひに、浴衣と糠袋を持たせ、揚屋町にある湯屋へ向かう。この娘はたいてい景気の悪い顔をしているが、今朝はいっとう酷かった。
「昼見世が始まるまでにその顔をどうにかせんと、客の前に出るを許すわけにはいきんせん」
強い口調で告げれば、背中を洗うあさひの手が止まった。がやがやと騒がしい湯屋に、あさひの慌てた声が響く。
「すみません、姉さん」
「わっちが聞きたいのは謝罪ではなく、あんたの顔が一段と不細工な理由でありんす」
「……わっちも年が明けて十四になりんした。それで、楼主がそろそろ新造出しをと……」
新造出しとはすなわち、禿卒業の儀式である。学習期間は卒業し、これより客をとる一人前の女郎になるためのお披露目だ。しかし、だからといって即客をとるというわけではない。新造出しの後、水揚という破瓜の儀(性の初体験)を済ますまで、原則として客をとることはない。
既に楼主より聞き及んでいた赤城は、「ああ」と気のない返事をした。
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