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「あんたに恥をかかせるつもりはありんせん。安心おし」
新造出しにはお披露目のために膨大な金がかかる。その全ては姉女郎持ちだ。姉女郎は自分の客から金を引き出すしかない。
あさひを安心させるため、口では気安いことを言うものの、実際はかなり資金繰りが厳しい状態だった。
(あたしだって金に困っていなければ、あの莫迦ボンの相手なんかしないさ)
心の中でぐちぐち悪態をつく赤城は、背中であさひが暗い顔をしていたことに気づかなかった。
「そんな図々しいことを考えているわけではありんせん」
「だったら何を?」
「新造出しを済ませたら……水揚をしなければなりんせん。姉さんが羨ましいざんす。榛名様のような、お優しい馴染みがいて」
いまいち意味が飲み込めない。これは背中越しに行う会話ではないと判断した赤城は、身体ごと振り返り、正面からあさひに向き直った。
「それは水揚の相手が莫迦ボン……じゃなかった、榛名様がいいという意味かい?」
思わず廓言葉を忘れて尋ねる赤城の前で、あさひはぽっと頬を染めた。
「とんでもない! 姉さんの馴染み相手に、そんなやましいことは思っておりんせん!」
「でも」
「わかっておりんす。水揚の相手に、榛名様は若すぎます」
基本的に水揚の相手は、気心の知れた客の中でも、四十歳以上の男に任される。詳しい年齢は知らないが、榛名はおそらく二十代の前半くらいだろう。
途方に暮れた赤城は、赤子を宥めるような声色を上げていた。
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