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アクリルの上で火花が散る
水族館の暗がりの中で、ガラス張りの水槽の中で泳ぐノコギリエイの白い腹部を目で追っていた。水槽の前のアクリルの手摺に両手を突いて、僕もそれを見上げている。握る手摺のアクリルは絶縁体で、電流を通さない。だから僕の中の電気は逃げ場を失う。
手摺の上に広げた僕の左手の中指の先、五センチメートルの所にピンと伸びた君の右薬指がある。その君の薬指の付け根には銀の指輪が煌めいている。それは僕の親友の柾尋が去年のクリスマスに君に買ったものだ。
アクリルの上、僕の中指の先と君の薬指の先の間の空隙に僕は視線を落とす。その微かな断絶が、今の僕にとっては生々しい程に現実だ。
君の横顔を見遣ると、耳を覆うソバージュの隣で色白の頬を膨らませて、無邪気な笑顔を湛えていた。少女の瞳は好奇心の色彩を映す。水槽の中の魚群の遊泳は、僕たちに本能的な刺激を与えているようだ。
両手を水槽前の手摺に付けたまま、君は「わぁ」と声を漏らした。
――津倉都
それが君の名前だ。僕の一番仲の良い親友、成田柾尋の大切な彼女だ。
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