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「でも、『無条件に惹かれる』っていうのは分かる。なんとなく分かるわ。魚の群れに、人間の原初的な感性が、何かを本能的に感じるのかもしれないね。自由そうで自由じゃなくて、生態系の中で一生懸命で、群れの中で泳いでいる魚達に。私達」
「なんか、あるよね。何かに惹かれる時って、頭で考えるんじゃなくて、本能的なところで既に惹かれている、みたいなね? あ、ちょっと、気障すぎるかな」
僕はそう言ってノコギリエイの白い腹部を再び目で追う。君は僕の視線の先を辿って、ノコギリエイの白い腹部に到達すると、僕と一緒になってそれを目で追う。
するとノコギリエイは四匹の魚の群れに飛び込んだ。その四匹は突進を避けるように、散り散りに分かれ、それぞれが岩場の裏へと消えていった。しばらくすると、何事も無かったように岩の裏から二匹づつ番が、何食わぬ顔でスルリスルリと抜け出て来た。
ノコギリエイもまた、何事も無かったように水面の光ある上方へと昇って行った。大きな水槽の上方は屋外に繋がっている。そこには太陽の光が差し込み、ノコギリエイの姿は光の煌きの中で、何だか神聖にさえ見えた。
――無条件に惹かれる
その響きが、僕の中で残響を残していた。もしかしたら君の中でも。
ただ、その残響も、僕を現実に引き戻す甘ったるい音声によって掻き消された。
「ねぇねぇ」
背中から声を掛けられて我に返った。
「この建物出たら何処に行くの?」
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