音楽室のおじさんと室伏さん

２

「おじさん、私おじさんのこと、少しでも理解できたかな」
　誰もいない音楽室で、写真を見上げて話しかけた。あの最初の日のように、音楽室は夕日に照らされている。
　おじさんは、相変わらず楽譜をじっと見つめたままだ。だけど、その心の中では、きっと音楽への愛情であふれている。それを、もう私は知っている。

「もう！　おじさんって呼ばない。成木先生、でしょ」
　いつの間にか室伏さんが、私の横に立っていた。室伏さんは、地味な見た目に反して、情熱的できびきびした人だと一緒に活動して分かった。
　この三年、私のクラリネットの先生であり、親友でもあった。教室で過ごすだけでは、彼女の魅力には決して気が付かなかっただろう。それを知れたのも、この写真のおじさん、成木先生のおかげだ。

　クラスメイトたちとは、きっと年に一回同窓会で会うくらいで、これからどんどん疎遠になっていくだろう。でも室伏さんとは、卒業しても頻繁に会うなという気もしていた。
　一緒に地域の楽団に入ろうという話もしている。

「行こう、高校生活最後の演奏だよ」
　今日、体育館で全校生徒の前で演奏して、私たちは部活を引退する。
　もちろん演目は成木作品を集めている。

　マウスピースにリードを取り付けて、かちかちと組み立てた。あのとき室伏さんがやっていたように。スケールを何度か吹いて調子を確かめる。