音楽室のおじさんと室伏さん

１

「成木先生は、有名な作曲家でね。昔ここの顧問をやっていたんだって。だから、今でも成木先生の曲は、この高校の十八番なの」
　おじさん、先生だったんだね。黙ってまた写真を見つめた。
　室伏さんは、水を得た魚のようにうきうきと話を続ける。
「中学のときに、コンクールで他の学校が成木先生の曲を弾いていてね、それでほれちゃったんだ。すごくいい曲がたくさんあるんだよ」
　こんなにぺらぺら話す子だったんだと、私はおじさんの写真から、室伏さんに目を移した。室伏さんは、頬を少し赤くして、目をきらきら輝かせている。まるで恋でもしているみたいだった。

「今度、演奏会があるから聴きに来て！」
　チラシを渡された。興味、ないんだけどな。そう思いつつ、もう一度おじさん、成木先生とやらの写真を見上げる。やっぱりおじさんは、難しそうな顔をしてじっと楽譜を見つめるばかりだった。