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 それと同時に、指揮者が棒を振り下ろして、一音目が鳴った。びりびりと空気が揺れる。  何、この曲。  いつのまにか、私は物語の中にいた。流れる川、雄大な山。そして、そこで暮らしている力強い人々。曲の中でその世界は生き生きと動いていた。音楽に興味がない私も、それが分かった。    おじさん、こんな曲、作っていたんだ。  写真の無表情からは想像できなかった世界。こんなすごいことを考えていたんだって、知らないおじさんの、頭の中をのぞいた気分だった。  舞台では、室伏さんが一生懸命にクラリネットを吹いている。ときに体を揺らしながら、とても楽しそうだった。クラスでいるだけでは分からなかった、室伏さんの中にある熱さが伝わって来る。  室伏さんを、こうも熱くしているのは、きっと、あのおじさんが描いたこの曲のせいだった。
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