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次の日の朝。私は音楽室を訪れた。
「おじさん、すごいじゃん」
白黒写真のおじさんに話しかける。おじさんは今日も無言のまま、楽譜を見つめている。
「あれ、三島さん」
前の扉から入って来たのは、室伏さんだった。
「おはよう」
「おはよう。何してるの」
聞かれて一瞬迷ったけど、正直に言うことにした。
「この前、演奏会すごかった。おじさんの曲」
写真を指さすと、室伏さんは慌てた。
「だめだよ、三島さん。おじさんなんて。成木先生、だよ」
「成木、先生か」
私も室伏さんにならって、先生と呼んでみる。
室伏さんも私の横に並んできて、二人でおじさんの写真を見つめた。
「私、成木先生のこと、もっと知りたいかも」
言うと、室伏さんの顔はぱっと明るくなる。演奏会のときのような、きらきらした顔。
「そう! いいよね、成木先生の曲! 一緒に演奏しようよ」
手を握られて、どきりとした。一緒に演奏する? 私が?
「でも、私音楽には興味ないし」
「いいんだよ。だって成木先生には興味あるんでしょ」
他の曲には興味なくてもいいんだから、と室伏さんは言い切った。
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