8/8
前へ
/11ページ
次へ
 次の日の朝。私は音楽室を訪れた。 「おじさん、すごいじゃん」  白黒写真のおじさんに話しかける。おじさんは今日も無言のまま、楽譜を見つめている。 「あれ、三島さん」  前の扉から入って来たのは、室伏さんだった。 「おはよう」 「おはよう。何してるの」  聞かれて一瞬迷ったけど、正直に言うことにした。 「この前、演奏会すごかった。おじさんの曲」  写真を指さすと、室伏さんは慌てた。 「だめだよ、三島さん。おじさんなんて。成木先生、だよ」 「成木、先生か」  私も室伏さんにならって、先生と呼んでみる。  室伏さんも私の横に並んできて、二人でおじさんの写真を見つめた。 「私、成木先生のこと、もっと知りたいかも」 言うと、室伏さんの顔はぱっと明るくなる。演奏会のときのような、きらきらした顔。 「そう! いいよね、成木先生の曲! 一緒に演奏しようよ」  手を握られて、どきりとした。一緒に演奏する? 私が? 「でも、私音楽には興味ないし」 「いいんだよ。だって成木先生には興味あるんでしょ」  他の曲には興味なくてもいいんだから、と室伏さんは言い切った。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加