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梅雨明け
今年の梅雨は長々と居座った。
学校の帰りに、ふと、富士山を見ると、また梅雨が居る。
もう7月も半分終ったのに、季節外れの台風を2つも吸収して、訳の判らない姿になった梅雨が、まるで世界の支配者か何かみたいに、日本一高い山の頂上から、あたし達を見下し雨を降らせ続けている。
今年の梅雨は、最初は天使のような姿だった。
でも、今、梅雨の背中の翼は、白い鳥の翼ではなくなっている。蝙蝠のモノにも、大昔のプテラノドンのモノにも似ていない。飛魚の胸ビレを巨大にしたような感じの翼だ。
首は妙に長くなり、顔は若いイケメンの男性のものだったが、今は、口がなくなってしまい、その代りに何本もの竜の首が生えて、タコかイカの足のように、うねうねと動いている。
胸には何故か4つのオッパイ、背中やお尻からではなく、腹のあたりから竜の尻尾が生え、手足は三毛猫のモノと化し、頭ではなく両肩に兎の耳が生え、右の脇腹からは狸の、反対側の脇腹からは狐の尻尾が生えている。
遠くの方に有る、汚物を思わせる廃工場。
その更に向こうにあるヘドロが固まったような富士山。
更にその頂上で蠢く梅雨。
降り続ける雨は黄ばみ、何日も放置した生ゴミの臭いを放っている。
……臭い?冗談じゃないよ、ガスマスクの効力が落ちてる。
朝から雨が降っているのに、湿度は全然下らず、もやが視界を覆っている。
「嘘でしょ……」
あたしは思わず叫んでしまった。
学校からの帰り道に巨大な地割れが出来ていて、汚染された雨を飲み込んでいる。
とぼとぼと、道を引き返す。
そして、交差点で廃工場の方に曲る。回り道をすれば、ひょっとしたら家に帰り着けるかも知れない。
「やだ……マズい……」
長雨が何日も続いたせいで、レインコートが劣化し、穴が空きかけている。
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