飼育希望される旅人

2/5

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
 ペットは飼わないって決めていたのに。  目の前のニンゲンを見て、私はそっと溜め息を吐いた。  飼い主が見つからなきゃ、こっちが面倒見ることになるよな……。  初めて見たときから気になっていた女の子が目の前にいる。白い靴下の履いたネコ付きで。  この子を初めて見たのは昨日の夜のことだった。公園で困ったようにキョロキョロとしていて、すぐに迷い子なんだって気付いた。身なりも綺麗だったし、立ち振舞いもちゃんとしつけられていたから。  だけど、酔っていたし、誰かが何とかするだろうと思って何もしなかった。  ただ、それは私の希望的観測だったようで、朝に出社している途中にこの子が公園に居たのを見た。ベンチに座り、深く溜め息を吐いていた。  そのときも声を掛けなかったけど、気になってはいた。あの子は何処の子なんだろうとか、可愛い子だったなーとか、ぼんやりと考えながらコピーをとるくらいには。  いつものように仕事をして定時に退社したあと、いつものようにチェーン店の居酒屋で夕食をとる。  このチェーン店はブラック企業として有名だよなと思いつつ、行きなれてしまっていた。年々、何か新しいことに飛び込もうという意欲がなくなってきている。  今日はいつも以上に深酒をしてしまった。酔えるだけ酔った。  だって、結婚の話をされたから。  最近、結婚しろという圧力が酷い。最初は違和感を持ちつつ流していたけど、あまりに高頻度でされたら嫌でも察してしまう。  結婚は相手がいなきゃできないものなのに、まだかまだかと遠回しに急かしてくる。  今すぐ、地球――もしかすると銀河中を旅して、相手を探せということですか。そりゃ飛び抜けて有能ではないけど、あまりにあんまりじゃないですか。  そう思いながら呑みに呑んでいて、そのあとの記憶が飛んでいる。  気付けば、自分の部屋に居て、この子がじっと私を見ていた。 「お姉さん、おはよう」  彼女が笑ってそう話し掛けてくる。彼女の肩に乗るネコが「お、女なのか……?」と怪訝な顔で彼女に言う。  私は顔を青くして、思わず悲鳴を上げてしまった。  言葉を喋った……!  いや、教え込めば何とかなるって話を聞いたことがあるけど、こんな流暢に喋るもんだっけ?
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加