飼育希望される旅人

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 それに、この前の動物番組でも検証してた。科学的根拠は皆無だって。  でも、健康のことを考えるとあまり積極的に摂取させちゃいけないとも言ってたな。 「まあいっか。食べて食べて」  少しくらいは良いだろう。甘いものは幸せな気分になるし。  彼女は「ありがとう!」と笑い、モンブランにがっついた。 「お礼してあげるよ。何かお願いはない?  大抵のことは叶えられるよ!」  もぐもぐと食べながら、彼女はそう言う。  私は思わず「お礼って……」と苦笑してしまった。彼女の気遣いだというのはわかっているけど、大抵のこととは大きく出たな。 「――お話、聞いてくれる?」  しばらく考えて、私はそう返した。それは遠慮なんかじゃなくて、今、誰かに愚痴を聞いて欲しかったから。 「職場がつらい。しんどい」  そう言ったあと、酎ハイを開けてぐいと呑んだ。 「だって、結婚の話ばかりしてくるんだよ」  彼女はモンブランを食べている。私の話に耳を傾けていると思いたい。ネコは顔を引きつらせている。 「配偶者がいるといかに幸せか~とか、老後のことを考えると~とか」  話すとそのときのイライラが蘇ってくる。一気に飲み干した。  何より腹立たしいのは既婚者の中に、何故か未婚男性が混じっているということ。 「そりゃ老後不安だけど!」  わざわざ指摘されなくても、私なりにわかっている。 「私に親がいないのを心配してのことかもしれないけど……」  今まで面倒を見てくれたおばあちゃんは昨年、亡くなった。最終的にはこっちが面倒見る側になったけど、ちゃんと恩返しできたかわからない。  彼女は食べるのをやめて、こっちを心配そうに見ている。どうやら、ちゃんと聞いてくれていたようだ。  私は彼女をそっと抱き締めた。彼女の身体は大きく揺れる。 「肌が柔らかい。あったかい」  よくおばあちゃんが使っていたバッグとは全然違う肌触りだ。  なんだか急に泣きたくなった。 「結婚しない。あなたを飼う。飼わせて」  元の飼い主のことを忘れて、そんな我が儘を口走る。 「一生ここに居て。名前も付けるし、ケーキもずーっと食べさせてあげる。ちゃんと最期まで面倒見るから」  ペットは――生き物は喋らないから、つい本音を吐いて甘えてしまう。  いや、この子は喋るから違うか。  だけど、彼女の身分を考えて、辛辣なことを言われないと踏んでいたのも事実だ。
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