星林堂の少女

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 彼女はどうしているだろう。  街灯の少ない、蛇行した山道を、慧一は迷いなく車を進ませる。  結局、卒業するまで、彼女に会う事は無かった。文化祭で甘乃川女子へ行った時、探したりもしたけれど。  平成最後の夏、と言われて、思い出した平成最初の夏に会った彼女は、きっともう、結婚していて、子供もいるに違い無い。  結局、彼女に言うことの無かった言葉を、慧一は反芻する。 「ちっともタールマンになんて似てない」  思えば、あれは初恋だったんだろうか。四十過ぎて、我ながら青臭いなあと思いつつ、ふと思い出した青春のひとときを、なんとなしに噛みしめながら、帰路を急いだ。  紫陽花公園、あの、天の川を映す川にかかる橋に、もう一度行ってみようか。平成最後の夏だから。 (終わり)
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