平成最後の夏

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「別に、すげえ高望みをしてるわけでもないんだけどなあ……」  後片付けを終えて、施錠し、通勤に使っている車に乗り込んでひとりごちる。松平の住まいは甘乃川市内では無く、電車で三十分ほどの立花郡にある。田舎の終電は早い、一時間に一本の電車に併せて勤めをする者は少ない、松平も通勤は車だ。  いまだに独身である事を、老いた両親は心配するが、他県へ嫁に行った姉や、都内で働く弟からは、老親と同居している弟であり兄をありがたく思ってくれているらしく、実家住まいはそれほど苦にはならない。高齢だが、今のところ両親は身の回りの事は自分でできるし、買い物や力仕事は独身の息子を頼りにしてくれるからだ。  とはいえ、自分達の死後の事を思うと心配なのか、時折いい人はいないか、親戚や近所にこぼしている事は知っていた。
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