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顔の左側につと、まばゆい斜陽の光が注ぎかけた。
俺は現実に引き戻されたように、窓ガラス越しの外を見た。サッカー部と野球部の活動音が聞こえる。威勢のいい掛け声、地面を蹴る音、バットがボールを打ち返す小気味よい音。それらが遠い潮騒のように聞こえる。
自分の他誰もいない教室の静寂に、俺は立ち尽くしていた。
窓際の、前から二番目の机の前で。
なんの変哲もない、こざっぱりとした机だ。中に忘れ物はない。机の上に消しかすなど乗っていない。落書きも、それを消した跡もない。
取り分け女子なら当然かもしれなかったが、俺には、あまりにも綺麗な机がひどく寂しいものに感じられた。魂も、思い出も、何もかも、過ぎ去ってしまった後のようで。存在をなかったことにされたようで。
ただ一つ、ほっそりとした白磁の花瓶が、真ん中にぽつねんと置かれている。
ただ一輪、花が生けられている。らっぱ状に開いた、白く清楚な花だ。
首をもたげるその様が、虚しく、そして悲しく見える。
花には全く疎い。だが、俺はこの花を良く知っている。
百合――彼女の名だから、良く知っているのだ。
俺は花瓶を持ち上げた。それが彼女自身であるかのように思われて。
鼻孔をふっと甘い香りがくすぐった。
脳裏に刻まれた記憶を、まなうらへと甘美に誘い出す。
男女合同の体育、学園祭、合宿旅行、席替え、偶然の一緒の帰宅。
そして入院見舞い。
あらゆる場面が、鮮やかに蘇る。壁一面にピンで止められた写真のように、一つ、一つ。
たった二年間はあまりに長く、けれどもあまりに遠い昔に感じられる。
それは、二十センチまで近付いたこともある距離が、あまりに遠く離れてしまったからなのだろう。
永遠に追いつけないほど。
俺は花瓶を置き、手を握りしめた。
ぐしゃりと、紙が無情にひしゃげられる。
それはとうとう、渡し損ねた手紙だ。俺の偽善的な臆病さによって、空費された時間のあかしだ。
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