1.Noise “騒擾”

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【同時刻 ナナ自宅】  ひたすら口をパクつかせ、三秒程で思いついただろう推測を茶の間に垂れ流す。  その石鯛みたいなツラもさる事ながら、必死に口砲から戯言を垂れ流す姿は、陸に打ち上げられ酸欠となった魚と言ってよく、職業ジャーナリストの彼の特性たる過激で的外れな、昼間の爆発騒ぎに関するコメントは、茶の間の視聴者の不安をさぞ煽り立ている事だろう。  だが、そのクソみたいなコメントは、居間に流れるデスメタルの音に掻き消され、それを為した張本人たるナナには届かない。 「まッ、アンタの戯言なんかどうでもいいけどね」  そう唇の端を上げ冷たく笑うナナは、酸欠の小魚に別れを告げワイン片手に窓辺へと足を進めた。  それなり高層マンションの階上から見下ろす街は、色とりどりに輝いていて、それは命の光の結晶体のようだと詩人風に思ってみても、それ以上の広範囲を占めるのは漆黒の闇である。  確かに夜明けを迎え朝日が上れば、世界は光で溢れて漆黒の闇は影を潜める事になるが、人が産み出した不可視の闇は、幾ら世界が光で満たされようとも消える事も無く、それに囚われた者は永遠に明けない夜を彷徨い続ける事となる。  どんな光も届く事も無い、深淵の漆黒の中には、一体どれ程の憤怒が蠢き、どれだけの絶望が蠢いているのだろう。 「結局。それを放置したままじゃ結果的に自分達のクビを絞めるだけ………って奴等は考え無いか」  ふん、と鼻を鳴らしそう吐き捨てたナナは、掌の中にある血の色をした液体を一口舐めた。
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