1.Noise “騒擾”

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 ナナが吐き捨てる奴等。それは、この暗い世情を創り出した元凶とも言えるだろう、数多の主義者共である。  理想。使命。正義。平和。等々、耳に心地良い響きを持つ言葉を説き、ここ数年世間を席巻してきた、右も左も奴等が大好きな“自由”という代物の代償が、このどん詰まりの現実だという訳だが。  奴等が大好きな自由とは、つまるところ虚の世界で生きる者に都合良く、実の世界で生きる数多の人々にとっては、この上無い不自由でしか無く、そんな不自由に蝕まれた“システム”は、今後も不可視の闇を膨張させ続ける事だろう。  なら、その流れを利用し、それに乗っかって計画を進めて行くだけの事で、計画も当初の想定以上に順調に進んでいると言っていい。  色んな憶測に塗れ始めたあの爆発も、酸欠小魚の様な事情通気取り共が、好き放題に憶測を垂れ流してくれる程、騒擾の気配はより強まる事となる。  計画開始の狼煙に過ぎないからこそ不殺で行く。  それはある意味、事件のインパクトを薄める事になるのは百も承知してたし、だからこその煩わしい苦労もあったが、結果を見れば上々で、実行役に徹していた“相棒”の苦労も報われるだろう。  そして何より。計画の根幹を為すオーロラについても、浅見の死体と、もう間も無く発見されるだろう出舞の死体という二枚のカードが揃った時点で、今はまだ、何処かの墓場で眠りに就くというオーロラへまた一歩近付く事となる。 《極光闇に輝けし時。吹き荒れる混沌の嵐は剣と為り、月の蔭に蠢く呪いを解き放つ》  またぞろ詩の一説を諳んじた自分を嗤いつつ、もう一口グラスの中のワインを舐めたナナは、情味を一切廃した精密機械の様なギターが織り成すアルペジオと、“俺の名は反逆だ”と唄うデスヴォイスをBGMに、漆黒の闇の中に輝く街の灯を見つめ続けていた。  
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